続々々々々々々々々々々・智恵子(小)
はじめに
この物語はある作家(家族の強い要望により匿名)の智恵子(小)との深い愛憎の様子を作家本人が記した日記である。
作家自身は発表の場を求めていたが、家族の強い反対により、商業誌での発表は見送られた。そのため一昨年に作家の匿名、また作家を特定できるような個所の非公開を条件としてその一部をSAKANAFISHにて公表した。
今回は、作家自身の強い要望により、前回の続きの公開をするものである。
なお、前回、前々回、前々々回、前々々々回、前々々々々回、前々々々々々回、前々々々々々々回、前々々々々々々回、前々々々々々々々回、前々々々々々々々々回掲載分を ご覧になりたい方はこちらへ。
8月11日
軒に朝顔の蔓が巻付いているのに気付く。迂闊。夏も半ばを終えている。あとどれだけ花を見ることができるか考える。惜しいことをした。明日は朝起きする心積もりである。智恵子(小)がなにやら韓国韓国と唱えている。朝鮮朝顔ではないと言うと泣きながら駈け抜ける。
8月12日
朝顔の花は薄青く、空の青に溶け合っている。昼過ぎであるが朝顔はまだ花をつけている。昨今の若者はひ弱になっていると言うが、朝顔に関しては的外れのようだ。夕刻、「抱月」。夏南瓜の煮物、若鮎。帰宅後もまだ朝顔は咲いている。生命力に感服。
8月13日
寝室の畳に蔦のようなものがはっている。たどって見ると瓢箪のようだ。そう街中で見るものではない。実ができれば徳利でも作ろうかと思う。朝顔は朝になっても咲いている。朝顔なのだから当然といえば当然である。
8月14日
S社のT来訪。対談の打ち合わせ。先方が会場を寿司屋にしろと強硬に言っているらしい。いまだにこうした接待を当然と思っている文士が多いのには閉口。茶菓子を出さないとひとしきり暴れたTをなだめて追い返す。
8月15日
終戦記念日。そういえば智恵子(小)が帰ってこない。気にしても仕方がないので終日執筆。はかどる。
8月16日
朝から薄暗い。夏だというのに不景気な暗さだ。終日執筆。はかどらず。
8月17日
忘れていた朝顔の様子を見ようとするが、行けども行けども蔓だらけ、断念。枕元にヘクソカズラ。葉を潰すと酷い臭いがするという。潰すものか。
8月18日
智恵子(小)戻る。なにやら双子の片割れと思しき高校生を連れてくる。「南が甲子園に連れて行けというので来ました。」と訳のわからない事を言うので追い返す。
8月19日
いよいよもって薄暗い。昼間から明かりをつける。智恵子(小)がはいつくばって「はい、では一旦CMでーす」などと言う。イグアナの真似だという。久しぶりに料理でもするかと包丁を取り出そうとするが、蔦に絡まれている。不憫なので隣家に包丁を借りに行くが断られる。
8月20日
藪橘来訪。何時ものように藪藪と詰ると、唇に冷笑を浮かべる。腹が立ったので蔦で作った鞭、ナチュラル・グリーン・ウィップで思うさま打ちのめす。生活の知恵。
8月21日
今日こそ料理をしようと思うが、醤油が切れている。仕方なく、地下の洞窟へ醤油を採りに行く。蔦をつたって降りると、あまりにも広大。さながら異世界である。疲れたので蔦に絡まって一眠り。文士一人旅。
8月22日
奇抜な格好をした老人に出会う。還暦で赤いちゃんちゃんこなら、さながら米寿ほどか。自分のことを魔法使いだなどと言う。哀れな。追い払ってもついてくるのであきらめて先へ進む。二回ほど降りたところで疲れたので蔦眠り。
8月23日
硬い鎧を着た若い娘に会う。自分のことを戦士だという。気の毒な。鎧というわりに肌の露出が多い。親御さんの嘆きは如何程であろうか。この娘も後をついてくる。地中の街を発見。宿屋で一眠り。三人で三十ゴールドとはリーズナブル。
8月24日
智恵子(小)と出会う。一級建築士だという。何を言っているのか。
8月25日
目的を危うく忘れそうになっていたが、醤油だ。途中の街ではナムプラーしかない。ベトナムか。街の人々に聞くと蔦の城にあるという。そうは言っても見渡す限り蔦だらけ。ともかく城を目指す。
8月26日
蔦の城にたどり着く。門番に竜、巨人、軟体動物、熊。熊を老人の魔法で倒し、軟体動物を娘の剣で倒し、竜を私のペンの力で倒し、巨人には智恵子(小)が家を作る。建築会社との連絡がつくまで城の前で待機。
8月27日
巨人邸の施工が始まる。地鎮祭を執り行った神主が仲間になり、城の奥に進む。
8月28日
城の主のお出ましである。正体は双子の片割れであった。あまり似ていない。二卵性のためか。老人は魔法、娘は剣、私はペン、智恵子(小)は城主一山300円と書く。POPデザイン講座も受講していたらしい。兎に角、戦いはまだ始まったばかりである。