続々々々々々々々々々々々々々々々・智恵子(小)
はじめに
この物語はある作家(家族の強い要望により匿名)の智恵子(小)との深い愛憎の様子を作家本人が記した日記である。
作家自身は発表の場を求めていたが、家族の強い反対により、商業誌での発表は見送られた。そのため千年より作家の匿名、また作家を特定できるような個所の非公開を条件としてその一部をSAKANAFISHにて公表しつづけているものである。
10月21日
日が落ちるのがすっかり早くなった。明かりをつけると赤蜻蛉が迷い込む。しばらく部屋を飛び回っていたが、やがて外へ飛んでいく。
舞い降りし
夜を目指すか 赤蜻蛉
夕食、栗飯。S社の矢橋君より送られた丹波の栗だという。
矢橋より 配送されし 丹波栗
短冊と筆を持った智恵子(小)が嗤う。
10月22日
秋晴れ。昼頃に散歩に出向く。途中、荒れ果てた古住宅の側を通る。倒れた門柱や塀の隙間からも芒がぼうぼうと顔を出している。そのような中に一本、女郎花が花をつけている。
去りし日の 笑を残せり 女郎花
くの一の くの字の意味は ブーメラン
手にブーメランと短冊を持った智恵子(小)が網タイツ。
10月23日
秋冷え。しかし何も見ず何も聞かず。決して俳句などを詠みたいとは思わず。
五七五 リズムが迫る 痩我慢
智恵子(小)がいつの間にか耳元に迫る。
10月24日
終日執筆。
青島が 仁藤の襟首 わしづかむ
仁藤吐く 和枝の居場所は 湯河原と
愕然として破り捨てる。
五七五 ファイセブファイブ 五七五
智恵子(小)がチアリーダーチームととともに舞う。
10月25日
気分転換に「抱月」。
胡麻豆腐 浅蜊酒蒸し ナポリタン
愕然。食事もそこそこに慌てて席を立つ。
五七五 七七七と 歌う日々
それは俳句ではなく仏足石歌だと、チアリーダーのジェシーに諭される智恵子(小)。
10月27日
逃げるようにハワイ。このような外国に来れば、俳情などは起こるまい。
アラモアナ ホノルル空港 マカダミア
チアリーダーのブレンダの実家でくつろぐ智恵子(小)。
10月28日
ワイキキビーチ。陽光が眩しい。日本での俗事も、五七五も、なにもかも溶けていく。
ラララララ ラララララララ ラララララ
ブレンダの 従兄弟に出会う 智恵子(小)。
10月29日
波と砂 潮風だけが 過ぎていく
ブレンダの 従兄弟と映画 智恵子(小)
10月30日
トロピカル ああトロピカル トロピカル
ブ従兄弟と 椰子の木陰で 智恵子(小)
11月1日
アロハシャツ 藪の医者来る 橘と
この水は 健康守ると 智恵子(小)
11月2日
痛痛い 注射はいやだ 涙かな
ブ従兄弟の サイン麗し 契約書
11月3日
どうなのだ 気分が違う この感じ 何かおかしな 薬を打ったか
ブ従兄弟の 振り込み増えし 口座より 金をおろしつ ニューのアロハよ
11月4日
体調に 変化の出でし 我を置き 一人帰国か 藪医師橘
ブ従兄弟の 弁護士現れ 法廷で 待つと意気込む 智恵子(小)典雅よ
11月5日
藪医者め なぜか疲れる こと多き 今までかような ことはなかりし 実になかりし
智恵子(小)も 弁護士雇いし 秋の暮れ 敵もアロハか 我もアロハか アロハロハロハ
11月6日
何故だろう 一日とても 長かりし 倍と覚えし 倍より多しか カツ丼思う 秋の夕暮れ アロハオエオエ
弁護士の 米国冗句 繰り返し うちのワイフさ うちのワイフさ うちのワイフさ 隣の旦那さ うちのワイフさ
11月9日
本日は 非常にとても 楽なりし
法廷で ブ従兄弟まみえる 智恵子(小)
11月10日
楽である 楽になりしか ロコモコと
証人が 意外な真実 物語る
11月11日
アロハ着てもひとり
崖の上に紅葉