ぴんぽーん |
………。
| ミールヴァートーンくーん、 あーそーぼー 。 |
| ミールヴァートーンくーん。 |
この呼び出し方はあまりにも英国紳士らしくなくないか？
そうかな？
|
| まだまだ甘いな、ワトスン君。これは相手の警戒心をとくテクニックさ。 |
| そんな少年の心を忘れてしまったような相手は願い下げだね 。 |
相手もできれば出会いたくないものだと思うがなあ。
| それにしても全然出てこないなミルヴァートンは。 |
| と言うか屋敷内に人っ子一人いないようだな。 |
| しかしこれほどの屋敷だ。使用人の一人や二人は常にいるはずだろう？ |
そういえば…と言うことは、ミルヴァートンは逃げたのか？
うーむ。モリアーティ教授に告白したものの、その結果を聞くのが怖くなってつい逃げてしまったのかな。 |
| これは困ったな。 ミルヴァートンのことは皆目わからんのだ。唯一の手がかりである奴の屋敷に奴がいないのでは手の出しようがない。 |
| ワトスン君っ！ |
| たとえ相手がどんな男だろうと、不法家宅侵入という手段に出るのはもってのほかだっ！ それが現代の法治国家の大英帝国というものじゃないのかねっ！。 |
| それをよい目的のためならそういった不法行為が許されるとしたら、現代の社会秩序はどうなる!?社会が崩壊することで人々が幸せになれるのかっ!!ひとつの小さな正義のために多くの人々が苦しむことになるなんて、そんなことは絶対に許してはならないことだっ！ |
| …それはともかく、このままでは確かに打つ手がないな。 |
いや、相手の取る手段と目的がわからない以上、ただ待っていても相手の思うつぼになるだけだ。 |
モリアーティ教授を罠にしようにも、相手に何かの思惑があったとしたら、罠が罠にならないかもしれないぞ。それにモリアーティ教授が我々に協力してくれるかどうかも…
| よいしょ、よいしょ。 |
| 懐かしいなあ。少年の日のころはよくこうして庭の木に登ったものだったなあ。お袋に見つかってこっぴどく怒られたっけ…。 |
おーいホームズっ！その木もミルヴァートンの屋敷の敷地じゃないのかっ！不法侵入だぞっ！
| …………………………。 さあ、これでよしと。 |
するするするする。 |
| なに、かんたんなことさ。 |
ずいぶんと甘い香りがするな…
| 。 |
| いいから。 |
| 飲めっ！飲むんだっ！飲みやがれっ！ぐらああーっ！ |
う、うわあああああっ！
| はあ、はあ、はあ…。 |
あ、あ、あ…
| どうだ…ワトスン君… |
甘い。
| そうだろう。それは黒砂糖と酢と泡盛を混ぜた蜜なのだからな。 |
| まったく甘みのふるまいがいが無いヒゲ医者だなあ。 |
で、この蜜がどうかしたのかい？
| 決まってるじゃないか。塗ったんだよ。 |
ぬる？
| あの木の幹に塗ったんだよ。 |
……。
何のために？
| 知らないのか？ こうしてできた蜜を木に塗っておくと、明日の朝にはカブトムシやクワガタムシなどの昆虫が集まってくるんだよ！ |
…それで？
| そうなればその昆虫達をとりにミルヴァートンがやってくるじゃないかっ！ |
| なんだとこのヒゲッ！ |
| …………。 |
その異常に白い肌、ルビーを埋め込んだ
ループタイ、甘樫の杖！
そして邪悪のかたまりのような金色の眼！
お前は、モリアーティ教授だっ!!
どうしてこんなところにっ!?
| 【これからのあらすじ】 ケンカの果てにハドスン夫人の下宿に戻ったホームズ達。 |