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かつーんかつーんかつーん。 | |
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かつーんかつーんかつーん。 |
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おい。
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なんだその足音は。 |
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| ははは、ワトスン君、知らないのかね。
タップダンスを。
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タップダンス? |
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アメリカのブロードウェイあたりで流行の靴で音を鳴らすための宗教儀礼さ。
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ダンスじゃなかったのか。
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| はっはっは、もともと踊りと宗教儀礼の間には深い関係があるのだよ。第二次世界大戦後日本を席巻した、踊る宗教を知らないか? |
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第二次世界大戦後でもないし日本でもないからな。 |
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| アマゾンの一部ではかえるを口にくわえて踊り狂う習俗があるという。 | |  |
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ヒキガエルからは麻薬成分が出るからな。 |
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| そう、そしてその成分を体内にすばやく循環させるために踊るのだ。それと同じように、靴を鳴らすために踊るのがタップダンスさ。 |
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なんだか間違ってるような気がするが。 | |
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アメリカ人というのは靴から出る音を尊崇する習俗があるからな。
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あるのか? |
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| だから僕が作ったこの自動演奏装置つき靴「ジドエク」があれば、アメリカは今でも大英帝国の領土であっただろう。 |
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タップダンスじゃなかったのかよ。 |
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| 踊る踊らないにかかわらず靴を鳴らすこと自体がタップダンスだよ。
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ダンスはどこへ行ったんだ。 |
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あの、ホームズさん、ワトスンさん。
できればもう少し静かにしてもらえますか。 |
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あ、すまん。 |
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| もし途中ではぐれたりすると危険ですから、黙ってついてきてください。 |
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しかしあまりにも通路が長いので暇でねえ。 |
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| ふざけていると永遠にこの通路で暇をつぶすことになりますよ。
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そ、そんなにとんでもないところなのか、ここは。 |
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だから私から離れたりすると、生還できる可能性が50パーセントからさらに落ちますよっ!
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すでに50パーセントなのかよっ! |
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うう…、どうしてこんなところを通らなきゃならないんだ…。 |
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| それもこれもミルヴァートン事件の幕を下ろすためさ。 |
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しかしここはスコットランドヤードの地下なんだぞ。こんなところに犯人がいるとでもいうのかい?
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そうでないと?
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わあああああっ!
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| 彼のように地下に潜む巨大な白ワニの餌食になることになる。
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ああああ、無駄話していてよかった…って助けないとっ! |
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ことにするな! |
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いいんだ、こういうのは。
こういうことを繰り返して社会というのは成長していくんだ! |
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何を言っているんだ。 |
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うわっ。
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ふふふふ、驚くのも無理はないな。
ここはスコットランドヤードの死体置き場だからな。 |
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行くまでに死体が増えるような死体置き場作るような奴らがロンドンの治安を担っているのか…
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人生というのは折々にしてそうした悲劇的な一面を持っているものさ。
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人生語られてもなあ。
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まあこんなところに入れられるのは悲劇でしかないなあ。 | |
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完全に白骨化してるな。ひょっとしてこれがミルヴァートンを恐喝していた男か? | |
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で、誰なんだい? | |
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え? | |
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ミルヴァートン…奴はまさに恐喝王と呼ばれるのにふさわしい男だ。
ありとあらゆる人間を恐喝したが、また自分自身も生涯において恐喝され続けたのさ。 |
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ど、どういうことだ!? |
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つまりミルヴァートンという男は、自分自身に恐喝しろと恐喝されて、恐喝を行っていたというわけさ。
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多重人格か… |
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しかし、恐喝され続けた側もついに我慢できなくなり、一度目は屋敷で、二度目は木の上で恐喝する側、つまり自分自身を殺そうと図ったというわけさ。
手紙にはそのいきさつが、恐喝する側にばれないように、暗号を使って書かれていた。というわけさ。
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ばれないようにも何も自分自身じゃないか。 |
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| はっはっは、そういう細かい点を指摘しだすと事件が解決したような気にならないぞ、ワトスン君。 |
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気だけなのかよ解決してたのは!
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| あんまり細かいことを気にしてると、中途半端に食べて余計腹が減った白い巨大ワニから逃げ切れないぞ!
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| うわああああっ! |
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