双葉博士 |
今回はもうそれは自信作です。 |
高橋委員 |
そうですね、できれば自信作でないものを提出しないでいただけるとこちらも楽でよいのですが。 |
双葉博士 |
…どういう意味ですか。 |
獅子ヶ島委員 |
そちらのちっちゃい子は誰かね。 |
双葉博士 |
申し遅れました、こちらは私の助手のレムミです。 |
レムミ助手 |
こんにちわっす。 |
双葉博士 |
彼女は高性能アンドロイドで、基本プログラムは私が「第28回全日本高校アンドロイド制作選手権」で優勝した時のものなんです。 |
高橋委員 |
…なぜ、最近開発したプログラムを使わないんですか? |
双葉博士 |
そこです! |
|
何がそこかね。 |
双葉博士 |
私、前回の結果が悪かった原因についていろいろと考えてみたんです。 |
高橋委員 |
はい。 |
双葉博士 |
そこで出た結論は、やっぱりサンタクロースという素材が悪かったんではないかと。もっと日本の伝統に基づいた怪人作りが求められているのではないかと思ったわけなんです。 |
獅子ヶ島委員 |
やっぱりねえ(笑) |
双葉博士 |
やっぱりってどういうことですか。 |
獅子ヶ島委員 |
…いやねえ、この間審査会の帰りにみんなで飲んだ時にそういうこという奴がいるんじゃないかって盛り上がってねえ。 |
双葉博士 |
そういえば高粒子怪人研究所の柚木博士に聞きましたよ。この間居酒屋で委員の人が飲んでたって。 |
高橋委員 |
ああ、柚木博士というとこの間イソベヤキドラゴンを開発なさった。 |
双葉博士 |
ずいぶんと騒いでらしたそうですね。ビールを持ってきた柚木博士もからまれてたいへんだったとおっしゃってましたし。 |
高橋委員 |
バイトしてたんですか柚木博士。 |
双葉博士 |
まさか税金で飲んでたんじゃないんでしょうね。 |
獅子ヶ島委員 |
そうしたいところだけどねえ、監査が厳しくてねえ(笑)。 |
高橋委員 |
忘年会などの飲み会も業務として認められていませんので。 |
双葉博士 |
それにしてはみなさんがばがばとすごい量の酒飲んでたそうですが。 |
望月委員 |
むしろ、飲まなきゃやってられないというところに近いのではないでしょうか。 |
双葉博士 |
…どういう意味ですか。 |
望月委員 |
説明に移ってください。 |
双葉博士 |
はい…つまり、今回の怪人では、日本の伝統というものを重視したのです。 日本の伝統といえば、ずばり「祭」です。その祭の精神を生かすことにより、日本の風土になじんだ治安用怪人ができるのではないかというのがコンセプトでして。 |
望月委員 |
それはよくわかりましたが、なぜ、祭と蛇なんですか。 |
双葉博士 |
やはり日本の代表的な祭といえば奈良の倭文神社の蛇祭ではないですか。 |
獅子ヶ島委員 |
ではないですかって言われてもねえ。 |
双葉博士 |
レムミ、スライドを出して。 |
レムミ助手 |
はいな。 「蛇は古代より夜刀の神説話や水神のシンボルとしての信仰を集めてきました。また、アルビノである白蛇は特に信仰の対象とされました。 倭文神社の蛇祭は麦藁で五mの大蛇を作って町内を練り歩いたあとに奉納、そしてその後に焼くというものです。弘法大師によって退治された蛇の霊を慰めるために始まったものという伝承がありますが、治水の技術を持っていたとされる弘法大師に、川の治水を祈願したものではないかとも思われます。」 |
高橋委員 |
…それで。 |
レムミ助手 |
「この蛇祭は全国に広く分布し、農業国である日本の文化と深く結びついたものであります。日本人の精神風土に深く根付いた蛇祭の精神を治安用怪人に生かすことにより、自然とともに生き、自然を生かしてきた日本という国のアイデンティティを再確認し、日本人の平安な日常生活をサポートすることができるのではないか―。」 |
獅子ヶ島委員 |
日本論語られても困るねえ(笑) |
望月委員 |
精神論はともかく、実際の性能を精査するのが当審査会の目的ですから。 |
双葉博士 |
性能面も問題は無いかと。何しろ0.6mgで人を死に追いやるというオーストラリアのタイガースネークの毒を使用した蛇を武器として使えるんですから。 |
獅子ヶ島委員 |
しかし相手は怪人だろう?人間相手に効く毒も怪人相手に効くかどうか、だ。 |
双葉博士 |
20キロ四方からあらゆる種類の蛇を集める機能が備わっておりますので、あらゆる毒で攻撃できますので、完璧な耐性を持った怪人はそうはいないかと。 |
高橋委員 |
あの、それはどうでもいいんですが。 |
双葉博士 |
…なんですか。 |
高橋委員 |
そんな、あらゆる種類の毒蛇が町中にあふれている風景を想像して、どう思われますか。 |
双葉博士 |
…………。 |
レムミ助手 |
さあ帰ろうかっ! |