|
【これまでのあらすじ】
ロンドン一の悪党とも言われる、恐喝王ミルヴァートンはある日血だまりの中で発見された。
ミルヴァートンはかすり傷ひとつなく、その場にいたホームズ達を恐喝するほどの元気を見せる。
なんとかしようとあれこれ調査するホームズ達だったが、ミルヴァートンの尻尾はなかなかつかめない。
そんな中、社交界の花形・エヴァ・ブラックウェル嬢が、ミルヴァートンに見初められた一人の人物をつれてくる。
なんとそれは、かつてライヘンバッハの滝で、ホームズとの死闘の末に消息を絶った、大英帝国暗黒面の総元締めとも呼ばれた悪の天才、モリアーティ教授だったのだ…
|
| |
|
あんたが言うな、あんたが。 | |
|
しかしこの20年間驚いたことのない僕もさすがに驚いたよ。 |
| |
|
20年間も驚いてないわけないだろう。 |
|
|
まさかモリアーティ教授が生きているとは。
この僕の手でしっかりととどめをさしたはずなのに。 | | |
|
さしたのかとどめ。 | |
|
激しい格闘の末、倒れたモリアーティ教授の頭めがけてわら人形を振り下ろしたのさ。
物理的な力と呪術的な力が合わさって強大なパワーが生まれ、モリアーティ教授を永遠の漆黒の闇に封じ込めたはずだったんだが…。
| | |
|
ワラでしばいただけじゃないか。 |
|
| | |
|
しかしどうだったっけなあ…
どうもモリアーティ教授がいなくなったあたりのことを思い出せない… |
|
|
しかしまあ、兄さん、
一体このことをどう見ますか
。 |
| |
|
ううむ、やはり悪党は悪党同士に引かれるものなのかな、それとも…。
| |
| | |
|
奴が何が恐ろしい計画をたて、そのためにモリアーティ教授の協力を得ようとしている、とかな。 |
|
|
さすが兄さん!
僕の血を引いているだけのことはあるよ!
いやーほんとにすばらしい!
まったくだよなあ!ワトスン君! | | |
|
いや血を引いているのは君の両親のだろう…
それにしてもライヘンバッハの滝で一体… |
|
| | |
|
あ、いたんですか。 | |
|
ミルヴァートンという人が、本気で博士のことを愛しているのかどうか、調べてほしいんです。
|
| |
|
…モリアーティ教授のことを…ですか…
なぜわざわざ… |
|
|
| |
|
…あの、ささいなことですが…教授とはどういうきっかけで友達になられたんですか…? |
|
|
博士とは月刊「フラワーアンドファンシー」の愛読者コーナーの投稿欄で知り合ったんです。
| | |
|
ファンシー…。 |
|
|
人気コーナーの「ファンシー凶器イラストコーナー」でいつも博士は一番でしたわ。 |
| |
|
…凶器… |
|
|
フリルいっぱいのピンクのブラックジャックの素敵だったこと…。 |
| |
|
…フリル…。
| |
|
その雑誌の読者招待ツアーで、博士や婚約者の彼とも出会うことができたのですわ…
| | |
|
シャーロック、シャーロック。 |
|
| | |
|
これはひょっとすると…ミルヴァートンが我々に仕掛けたワナかもしれんぞ…。 |
|
| | |
|
わしらをおびき寄せるために、偽の依頼をあの女にさせたのかもしれんということだよ。 |
|
|
ハッ!
まったく実にくだらない!
一体どういう育てられ方をしたらそんなしょうもない推理ができるんだ!
顔を血で洗って出直して来い! |
| |
|
なんだとこの野郎! | |
| | |
|
やめんかっ!
まったくさっきとはマイクロフトさんの扱いが全然違うじゃないか。
…さっきといえば、ライヘンバッハの滝で一体…
|
|
|
ごほんごほんごほんっ!
あーしかしながら兄さんの考え方にも一理はある!
だがっ!
これがワナだとしてもあえてのってみるのもひとつの手ではないだろうかっ! |
| |
|
なんだよいきなり。 |
|
|
それにだ。
もしも本気でミルヴァートンが、モリアーティ教授のことを愛しているのだとしたら…。
20世紀初頭の大英帝国ではそれは犯罪だ!同性愛者の罪、鶏姦罪は社会的地位の破滅すらもたらすのだからな。
|
| |
|
なるほど、そうすればミルヴァートンを逮捕できるということか。
しかしなんだかなあ。 |
|
|
やむをえんよ。
何しろ同性愛者の人権が認められるようになるのは50年以上後のことだ。
ドイツ軍のエニグマ暗号機解読にも携わり、コンピュータの父の一人とも言われる天才数学者アラン・チューリングですら逮捕されたほどだ。
キリスト教圏では重要なタブーだったのだからな。 |
| |
|
いや未来の人に対する言い訳はいいから。 |
|
| |
|
|
ホプキンス君… |
|
|
たとえどんな悪人で、どんな相手を愛していようとも、その愛する心を利用するなんて…私にはできません! |
| |
|
ホ、ホプキンス君っ!
|
|
| | |
|
すまないっ!
君はなんて美しく気高く清らかな心を持ってるんだ!
君が言ってくれなければとんでもないことをするところだった!
僕は自分の心根の汚さ、浅ましさを思い知らされたよっ! | |
|
いえ、そんな…。
私はただ…ホームズさんたちに、そういうことをする人になってほしくないと思っただけなんです…。 |
| |
|
うおおおっ!
なんていじらしいっ!かわいらしいっ!
ああ抱きしめたいっ!かかえて逃げたいっ!
| |
|
| |
|
というわけで依頼をお受けしますよ、ブラックウェルさん。 | |
| | |
|
さっきまでのこっちのやり取りを聞いてて、よく怒って帰りませんでしたね。 | |
|
わたくし、自分に話しかけてくる方以外の話は聞き流す主義ですの。
| | |
|
はっはっは、それはよい趣味だ! | |
| | |
|
ともかくこれで、ミルヴァートンとモリアーティ教授、両方の懐に飛び込むことになる。
虎穴にいらずんば虎児を得ず、だな。 | |
| | |
|
危険は覚悟のうえだ。
だが、あえて進まねばならないことが男にはある。
それに相手がロンドン一の悪党と大英帝国暗黒界の支配者であるならば、なおさら引くわけには行かないさ。
| |
| | |
|
よし!早速調査に行くぞ! |
|
| | |
|
あ。 |
|
| | |
|
ということは今までの話を… |
|
|
【これまでのあらすじ】
すねに傷を持つホームズ達だったが、ひょんなことから飾り職人の弥吉(平泉成)と知り合う。弥吉は代官(田口計)と越後屋(遠藤太津朗)に脅され、贋金作りの手伝いをさせられようとしていた。それを知った側用人牧野成貞(綿引勝彦)は、「贋金が増えると通貨の信用が下がってインフレになる」と危惧する。一方勘定奉行の荻原重秀(豊原功輔)は、幕府の窮乏した財政を再建するためにはインフレターゲットを設定して、若干のインフレを起こすのがよいと考える。おりしも近年の豊作続きにより、米価はデフレスパイラルの様相を呈していた。将軍綱吉(峰岸徹)は財政出動もやむをえないと覚悟を決めるが…
| | |
| よかった!いい趣味だ! |
|